-最近、街を歩く女のパンツ姿が増えてきたような気がする、スカートを穿く女が少ないような気がする-
そんなことをぼんやり考えながら、Aは自宅から最寄の駅に向かって歩いていた。
朝の出勤時間帯のせいか、駅に向かう人は皆、足早だった。
その流れを邪魔するかのように、Aはマイペースで歩いていた。
そして何人もの人に抜かれていった。
自分を追い抜いて行く人混みの中に見える女の後姿だけを見ながら、
-脚線が見えなくてもパンツのお尻のラインがしっかり見えれば、それで充分-
などと思いながら前を歩く数人の女のお尻に視線を落としていた。
Aは極度のパンツ尻フェチなのだ。
パンツ姿のお尻に出るパンティラインを見るのが大好きで、程よい膨らみと形の良いお尻に写るパンティラインを見ようものなら、即座にムラムラとしてくるのだった。
そんな性癖を持つAの前を、ベージュのパンツに濃い茶色のジャケットを着て、落ち着いた足取りで歩く女がいた。
女の歩く速度が、微妙だが、Aが歩く速度に合っていた。
そして歩き方が妙に色っぽかった。
Aは腕時計に目をやった。
翌日、Aは昨日と同じ時間に同じ場所を歩いた。
例の女と出会うことを期待してのことだった。
予想通り、女は後ろから近づき、Aを追い抜いていった。
-今日は濃紺のパンツか、悪くないな、線も見えるし-
Aは呟いた。
女は次第に遠のいた。
Aはその時、閃くものがあった。
翌日、Aは女の通勤時間に合わせ、女に追いつくような形になるように歩いた。
狙ったとおり、女が前を歩いていた。
Aはいつもより足早に歩き、女を追い抜いた。
追い抜いてすぐ、上着のポケットに手を入れ、携帯を出した。
同時にハンカチを落とした。
もちろん意図してのことだ。
女が気づいて拾ってくれるか、気づいても無視するか、Aは賭けた。
携帯を見る振りをしてそのまま速度を落とすことなく歩いた。
-まだか…-
Aの心は乱れた。
とてつもなく長い時間に感じられた。
賭けに負けたと思って諦めた瞬間、首筋に女の声が刺さってきた。
「あの、ハンカチ落としましたよ」
初めて聞く女の声だった。
-ハスキーで艶っぽいなぁ-
Aは呟いた。
内心小躍りしたが、そんな気持ちは微塵も見せてはならない。
ドキドキしたが、やっとの思いで平静を装って振り向いた。
初めて見る女の顔だった。
想像より良い女だった。
「はい?」
Aはわざととぼけた返事をした。
女がハンカチを差し出していた。
「ああ、あれぇ、落としてました? ありがとございます」
Aは狼狽した演技をしてみせたが、ぎこちなさを自分でも感じていたので、相手にバレはしないかと、さらに不安が増幅してきた。
手にはじっとりと汗をかいていた。
Aはバツの悪そうな顔でハンカチを受け取り、礼を言った。
女は会釈して、そのままAの前を通り過ぎて行った。
-初回はこんなもんでいいだろう-
緊張はしたが、自分のプラン通りに首尾よく終わったと、Aは納得した。
予想外だったのは、女が思ったより良い女だったことだ。
-自分はパンツ尻フェチだから、バックシャンでも充分だったが、前も良いに越したことはない-
-所詮、男は欲張りな生き物だからな-
などと勝手に納得していた。
数日後、Aは電車の中で女に声をかけるべく時間調整をした。
女が乗る電車の時刻と車両は予め調べてあった。
-これじゃまるでストーカーだな-
と思いながらのリサーチだった。
本人がストーカーではないと思っているところが問題だが、特殊な性癖のため、危害を及ぼすようなことはなかった。
Aは乗車後、やや混雑した電車の中で、揺れに任せて徐々に女の傍に近づいていった。
そして、女と斜向かいになる位置を確保して、機会を待った。
女はつり革につかまりながら、片手に経済新聞を持って読んでいた。
電車が大きなカーブに差し掛かったとき、Aは女にもたれかかった。
その瞬間、
「あっ、すいません」
と謝った。
-わざともたれかかっておいて-
と自分で違和感を感じながらも
-シメシメ-
と思っていた。
そして、自分のシナリオ通りに、
「あっ、あなたは、この間の…」
と驚いてみせた。
女はしばらく唖然としていたが、思い出したように、
「ああ、ハンカチの方、ですよね?」
と問い返してきた。
「そうです、そうです、あの時はありがとうございました」
「あ、いえ、大したことではないですから」
Aはその先、言葉を繋げなかった。
女もちょっと当惑気味だったが、ちょうどその時、電車が次の駅に停まり、新しい客が乗り込んできて、二人の間は押し広げられたため、その日はそれきりになった。
Aのシナリオではもう少し会話が続くはずだったが、現実はそれほど甘くはなかった。
さらに数日後、Aは駅に向かう途中で女と出会うように時間調整して出かけた。
予定通り、女に接近できた。
そして、シナリオ通りに、
「おはようございます」
努めて元気の良い挨拶をした。
すでに声を交わしているから、後は元気よく、勢いで接する方が得策と判断しての行動だった。
女は、やや戸惑った様子だったが、笑顔で挨拶を返してくれた。
そんな朝のアタックを繰り返しながら、Aは女との距離をかなり縮めていった。
そして、最初に女のパンツ尻を見てから半年ほど経った頃、Aは女をホテルに誘うことに成功した。
これまで、Aが女のパンツ尻を見るときは、必ずパンティラインが浮き出ていた。
今日はその実態を目撃できるのかと思うと、Aは落ち着かなかった。
Aはホテルにチェックインし、女とエレベータに乗り、フロントで渡されたキーの番号のあるドアの前に立った。
-いよいよだな-
Aは心身共に緊張していて、股間は既に熱かった。
部屋に入ってソファに座ったAは女に、
「先にシャワー浴びてきたら」
と促した。
女はちょっと躊躇したが、頷いて、パンツを脱ぎ始めた。
Aはその後ろ姿を見ていたが、そこにはパンツに写っていたパンティがなかった。
Aは狼狽して、
「あれっ」
と思わず声を出してしまった。
女は振り向き、不思議そうにAを見て、
「どうかなさった?」
「いいや、パンティが…」
「ああ、私Tバックなの、ノーパンじゃなくてよ」
「でも、パンツにパンティのラインが…」
「ああ、あれはそういう紋様が入ったパンツなの、エンボス加工ね」
「ええ、そんなものがあるのかぁ」
「男の人がパンティラインを見たがると思って、わざわざそういうパンツを穿いてるのよ」
Aは自分の股間を覗いた。
冷め切った湿地帯があるだけだった。
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