「1年で1M、2年で2M、3年で3Mと成長しますし、地上部分と同じだけの深さに根を張ります」
K大学のM教授は講演会で熱く語っていた。
話の中心はシイ、タブ、カシ、つまりどんぐりの木の成長と環境に関することだった。
どんぐりはポット苗として芽を出したものを、地面に移植すればスクスクと成長し、根をしっかり張るので緑化には最適というものだった。
Aは講演会でその話を聞いたとき、あるアニメーションを思い出していた。
かなり前に観たものでストーリーなどはうろ覚えだったが、男が毎朝玄関の外にあるバケツから、浸してあったどんぐりを一掴み取ると、杖で地面に穴を開け、どんぐりを埋めると、何年か後に鬱蒼とした緑に囲まれる土地に変身し、多くの家族連れで賑わっている、というものだった。
どんぐりって面白いなぁ、とその時思ったものだったが、今度の講演会でますますその思いを強くした。
そして、あることが閃いた。
数ヶ月してどんぐりが地面に落ち始めると、Aは毎朝近所の公園を回って、山のようにどんぐりを拾い集めてきた。
そして、大きなバケツに水を張り、どんぐりを浸した。
同時に、ホームセンターからビニールの小さな鉢を購入し、ポット苗作りの準備を始めたのだった。
年を越し春になったら、およそ数百個のポット苗にどんぐりの芽が出てきた。
Aはその生命力に驚くとともに、M教授が言うように、1年で1Mといった調子で成長してくれることを期待した。
時期が来るまでAは、毎日水遣りをして、芽の成長を見守った。
苗が力強い味方に見えていた。
いよいよその時が来たとAは判断し、毎晩ポット苗を数本もって出かけて行った。
行き先は近所のショッピングモールだった。
元々は大手メーカーの工場があった場所だったが、大手デベロッパーの手で再開発が行われ、賑わいのあるショッピングモールになっていた。
再開発の話が持ち上がった時、Aは周辺住民と一緒に、市民が憩える緑化公園にするよう行政などに働きかけたが、結局どうにもならなかった。
行政にすれば、土日でも周辺の町から人が集まれば成功という判断なのだろうが、地元住民にとってはたまったものではなかった。
車の渋滞や人ごみで、町は汚れていくのだった。
毎朝、そのショッピングモールの脇を歩くAは、施設周辺にある緑地帯に何か木を植えたいと、常々考えていた。
そんな時、M教授の講演を聴いたのだった。
緑地と言っても、それほど頻繁に手入れされる訳ではないので死角になる部分に植えれば抜かれることもないと、Aは考えていた。
毎朝、緑地帯を見回って、その晩に苗を植える場所を決めていた。
そして今夜も10本ほどのポット苗をもって、あらかじめ決めた場所に行き、静かに移植の作業をした。
あれから1年経った。
100本以上植えた苗のうち、生命力があるものやショッピングモール側の人間が抜いたもの以外はすくすくと成長していた。
ショッピングモールには気づかれずに早く大きくなれ、そしてこのエリアを緑で埋め尽くしてくれ、そんな思いだった。
5年ほど経った時、ショッピングモールの周辺は鬱蒼とした緑に囲まれる緑地帯となり、そこに集う人達で賑わっていた。
ささやかな復習のつもりが、結局、ショッピングモールを利することになっていた。
Aのゲリラ活動は複雑な思いと共に終焉した。
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発行元:飄現舎 代表 木村剛
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