終電間近だというのに、電車から降りる客が多かった。
金曜日の夜ともなると、電車も定刻どおりには走っていない。
酔客が原因なのか、乗り継ぎ電車の待ち合わせなどで、遅れることは、最近では当たり前になってきている。
「この不景気によくまあこんなに酔っ払った人間がいるもんだ」
改札に向かって歩きながら、Aは呟いた。
Aは仕事で遅くなり、アルコールは一滴も飲んでいなかった。
それだけに、幾分ひがみがあったかもしれない。
電車から降りた人間は、乗り換えで走る者、家路に向かって足早に歩く者など、蜘蛛の子を散らすように拡散していく。
一人暮らしで慌てることもないAは、ゆっくりと改札を出た。
と、その時、有人改札から怒声が聞こえてきた。
見ると、駅員と夜だけ配置される民間の警備会社の人間が、性質の悪い酔っ払いと思われる人間を相手にしていた。
深夜の駅舎に響く怒声だった。
この手の酔っ払いほど、酔いが醒めれば大人しい人間はいない。
酒の力を借りなければストレスを発散できないのだ。
その相手をさせられる方はたまったものじゃない。
このケースも、聞いていると無茶苦茶な話だった。
駅員の態度が気に食わないとか、自動改札の動きが早いとか遅いとか、支離滅裂だった。
弱った顔で相手をしている警備員は、よく見るとAの友人だった。
しかし、その場の雰囲気から声をかけることはせず、Aは家路についた。
数日後、友人のことが気になったAは電話してみた。
次の休日、Aは近所の喫茶店に入った。
友人は先に来て待っていた。
「待たせたかな?」
「そうでもないよ」
男は笑顔でAを迎えた。
「久しぶりに電話もらって驚いたよ」
「こっちも君が駅で警備してるとは驚いたよ」
「いろいろあってね、なかなか落ち着かないんだ」
男は暗に転職を繰り返していることをほのめかした。
「まあ、それはともかく、あの晩の酔っ払いには手を焼いてたようだね」
「ああ、あの手の人間は毎晩のようにいるよ。いつの時代にもいるのか、あるいは現代の象徴なのか、その辺は分からんが、理屈も何もあったもんじゃないから大変さ」
「どうすれば決着するんだ」
「相手の気が晴れるまで喋らせるが、どうしようもない時は警察を呼ぶことになっている」
「警察?」
「ああ、特に暴力を振るう相手にはそうすることが多いね」
「暴力を振るうというのは聞いたことがあるが、よくあるのか?」
「頻繁ではないが、たまにはね」
「君はやられたことがあるの?」
「何度かね」
「そりゃ大変な仕事だね」
男は珈琲を口に運んだ。
Aも一口飲んだ。
「そんな時は、まさか相手にできないんだろ、やられ損か?」
「まあ、そんなとこだね」
男は詳細に語ることを避けていた。
しかし、Aはあのような理不尽な行動をする酔客を、いくら酔ってるからといっても、許す気にはなれない性分だった。
「ちょっと、僕にアイデアがあるんだが…」
「アイデア?」
Aは男の耳に顔を近づけると囁いた。
「えっ!そんなことができるのか?」
「任せてくれ、以前から練っているアイデアでね、いい機会だから完成させるよ」
男とAは珈琲を飲み干して、店を出た。
1ヶ月が経った。
同じ喫茶店でAは男を待っていた。
約束したものを早く男に見せたくて、約束した時間より早く来ていた。
男が店に入ってきた。
表情が暗かった。
「待たせたかな?」
「いやそんなことはないが、どうした顔色が良くないな」
「ちょっと疲れてるのかもな、なにせ夜の勤務が長いから」
「昼間寝て、夜働くというのは、人間の体調を狂わすというからな」
「そうだな」
男は珈琲を注文した。
Aは男の前に箱を出した。
「できたぞ」
Aは箱を開けた。
「これか、意外に小さいな」
「ああ、最近の電子部品は集積度が高いから小さく出来る」
そこに、珈琲が運ばれてきた。
男は珈琲を一口飲んだ。
その時の男の表情に、安堵感のようなものがあったのをAは見た。
「これは君の仕事に役立つと思うよ」
「効果はどうなんだ?」
「実験は済んでいる、極めて良好だよ」
「使い方は?」
Aは男に、その携帯電話ほどの装置を手渡して、使い方を教えた。
操作はいたって簡単なものだった。
いくつかの初期設定をすれば、あとは装置の中央にある大きなボタンを押すだけだった。
「しかし、よくこんなものを作れるな」
「機械いじりとか発明が元々好きなんだ。それに君たちに害を及ぼす例の酔っ払いのような人間を、僕は嫌いだから、以前からこんな機械があればと思っていたのさ」
「なるほど」
「とにかくこれは君に進呈するから職場で役立ててくれ」
男はいつも通り、駅で夜勤についていた。
その晩は特に性質の悪い客はいなかった。
終電も行った後、改札のシャッターが下ろされた。
男は事務所に行き、現場上司の駅員にその日の状況を報告した。
「ああご苦労」
上司は男の顔も見ずに言った。
上司は部屋を出て行った。
男も後を追うように部屋を出た。
上司はトレイに入っていった。
男も後に続いた。
「なんだお前、気持ち悪いな、人の後から入ってくるよう…」
と言いかけたが、その時すでに上司の姿はなかった。
男の手には例の装置が握られていた。
男はボタンを押したばかりだった。
「効き目は抜群だな」
男は呟いた。
Aが作ったのは人間を瞬間に消し去る装置だった。
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