2010年4月19日月曜日

お掃除ボタン

終電間近だというのに、電車から降りる客が多かった。

金曜日の夜ともなると、電車も定刻どおりには走っていない。

酔客が原因なのか、乗り継ぎ電車の待ち合わせなどで、遅れることは、最近では当たり前になってきている。

「この不景気によくまあこんなに酔っ払った人間がいるもんだ」

改札に向かって歩きながら、Aは呟いた。

Aは仕事で遅くなり、アルコールは一滴も飲んでいなかった。

それだけに、幾分ひがみがあったかもしれない。



電車から降りた人間は、乗り換えで走る者、家路に向かって足早に歩く者など、蜘蛛の子を散らすように拡散していく。

一人暮らしで慌てることもないAは、ゆっくりと改札を出た。

と、その時、有人改札から怒声が聞こえてきた。

見ると、駅員と夜だけ配置される民間の警備会社の人間が、性質の悪い酔っ払いと思われる人間を相手にしていた。

深夜の駅舎に響く怒声だった。

この手の酔っ払いほど、酔いが醒めれば大人しい人間はいない。

酒の力を借りなければストレスを発散できないのだ。

その相手をさせられる方はたまったものじゃない。

このケースも、聞いていると無茶苦茶な話だった。

駅員の態度が気に食わないとか、自動改札の動きが早いとか遅いとか、支離滅裂だった。

弱った顔で相手をしている警備員は、よく見るとAの友人だった。

しかし、その場の雰囲気から声をかけることはせず、Aは家路についた。



数日後、友人のことが気になったAは電話してみた。



次の休日、Aは近所の喫茶店に入った。

友人は先に来て待っていた。

「待たせたかな?」

「そうでもないよ」

男は笑顔でAを迎えた。

「久しぶりに電話もらって驚いたよ」

「こっちも君が駅で警備してるとは驚いたよ」

「いろいろあってね、なかなか落ち着かないんだ」

男は暗に転職を繰り返していることをほのめかした。

「まあ、それはともかく、あの晩の酔っ払いには手を焼いてたようだね」

「ああ、あの手の人間は毎晩のようにいるよ。いつの時代にもいるのか、あるいは現代の象徴なのか、その辺は分からんが、理屈も何もあったもんじゃないから大変さ」

「どうすれば決着するんだ」

「相手の気が晴れるまで喋らせるが、どうしようもない時は警察を呼ぶことになっている」

「警察?」

「ああ、特に暴力を振るう相手にはそうすることが多いね」

「暴力を振るうというのは聞いたことがあるが、よくあるのか?」

「頻繁ではないが、たまにはね」

「君はやられたことがあるの?」

「何度かね」

「そりゃ大変な仕事だね」

男は珈琲を口に運んだ。

Aも一口飲んだ。

「そんな時は、まさか相手にできないんだろ、やられ損か?」

「まあ、そんなとこだね」

男は詳細に語ることを避けていた。

しかし、Aはあのような理不尽な行動をする酔客を、いくら酔ってるからといっても、許す気にはなれない性分だった。

「ちょっと、僕にアイデアがあるんだが…」

「アイデア?」

Aは男の耳に顔を近づけると囁いた。

「えっ!そんなことができるのか?」

「任せてくれ、以前から練っているアイデアでね、いい機会だから完成させるよ」

男とAは珈琲を飲み干して、店を出た。



1ヶ月が経った。

同じ喫茶店でAは男を待っていた。

約束したものを早く男に見せたくて、約束した時間より早く来ていた。


男が店に入ってきた。

表情が暗かった。

「待たせたかな?」

「いやそんなことはないが、どうした顔色が良くないな」

「ちょっと疲れてるのかもな、なにせ夜の勤務が長いから」

「昼間寝て、夜働くというのは、人間の体調を狂わすというからな」

「そうだな」

男は珈琲を注文した。

Aは男の前に箱を出した。

「できたぞ」

Aは箱を開けた。

「これか、意外に小さいな」

「ああ、最近の電子部品は集積度が高いから小さく出来る」

そこに、珈琲が運ばれてきた。

男は珈琲を一口飲んだ。

その時の男の表情に、安堵感のようなものがあったのをAは見た。

「これは君の仕事に役立つと思うよ」

「効果はどうなんだ?」

「実験は済んでいる、極めて良好だよ」

「使い方は?」

Aは男に、その携帯電話ほどの装置を手渡して、使い方を教えた。

操作はいたって簡単なものだった。

いくつかの初期設定をすれば、あとは装置の中央にある大きなボタンを押すだけだった。

「しかし、よくこんなものを作れるな」

「機械いじりとか発明が元々好きなんだ。それに君たちに害を及ぼす例の酔っ払いのような人間を、僕は嫌いだから、以前からこんな機械があればと思っていたのさ」

「なるほど」

「とにかくこれは君に進呈するから職場で役立ててくれ」



男はいつも通り、駅で夜勤についていた。

その晩は特に性質の悪い客はいなかった。

終電も行った後、改札のシャッターが下ろされた。

男は事務所に行き、現場上司の駅員にその日の状況を報告した。

「ああご苦労」

上司は男の顔も見ずに言った。

上司は部屋を出て行った。

男も後を追うように部屋を出た。

上司はトレイに入っていった。

男も後に続いた。

「なんだお前、気持ち悪いな、人の後から入ってくるよう…」

と言いかけたが、その時すでに上司の姿はなかった。

男の手には例の装置が握られていた。

男はボタンを押したばかりだった。

「効き目は抜群だな」

男は呟いた。

Aが作ったのは人間を瞬間に消し去る装置だった。




/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 発行元:飄現舎 代表 木村剛
 
【運営サイト:PC】

  ■中小企業のためのインターネット活用塾■

  ■集客動画制作のディマージュ■

  ■弁当庵:簡単手抜き弁当レシピ■

  ■女性が美しくなるサクセスダイエット■

  ■低カロリーダイエット支援■

  ■ミネラルウォーター専門店通販サイト■

【運営サイト:携帯サイト】

  ■ミネラルウォーター専門店通販サイト■

  ■インフルエンザ対策グッズ専門店通販サイト■

  ■花粉症対策グッズ専門通販サイト■

  ■電子たばこ専門店通販サイト■

/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿