2010年4月11日日曜日

死者の声を聞く男

死者の声を聞く男

深夜の2時過ぎ、昔風に言えば丑三つ時にあたるだろうか、Aは品川区の某寺の門をくぐった。

リュックを背負ったAは、暗闇の中を迷いも無く、ある方角に向かって歩いていた。

Aが向かったのはこの寺の裏にある墓地だった。

この寺は、江戸時代に品川沖で遭難した人や、鈴ヶ森で処刑された罪人、関東大震災で焼死した人の無縁墓地があることで有名だった。

もっとも普通の檀家の墓もたくさんある。

Aは、ある檀家の墓の前で立ち止まった。

手にした小さな懐中電灯で墓石に刻まれた文字を確認した。

「ここだ」

Aは呟くとしゃがんで、懐中電灯のスイッチを切り、リュックの中から小さな線香を出して火をつけた。

墓石の前に線香を置いて、合掌した。



かなり長い時間、合掌していた。

30分ほども経っただろうか、男は手を緩め、目を開けた。

そして、しゃべり始めた。

「こんばんは、1年ぶりですね、お元気でしたか?」

なんと、Aは墓石に向かってしゃべっていた。

「ああ、なんとかな」

「ご機嫌が悪そうですね、どうしました?」

誰としゃべっているのだろうか、相手は見えない。

「命日だってのに誰も来てないんだ」

Aは、月明かりでぼんやりと照らされた墓石の前を見た。

花は無く、線香を炊いた跡もない。

墓石も汚かった。

遺族が誰も来ていないという証だった。

「そりゃお気の毒ですね」

Aは社交辞令として言った。

「だから僕が来てるんじゃないですか、ゆっくりお話しましょうよ」

「そうだな、あんたのお陰で気が晴れるよ」

Aは、自分に霊感があることを知ってから、このように、命日を迎えた霊と1年に1回、墓地で話をすることをボランティア活動としてやっていた。

しかもその多くの遺族が墓所の清掃にも、お盆にも来ないという霊ばかりだった。

「まあ、ご遺族に対する不満もあるでしょうが、霊界の方はどうなんですか?」

「こっちはこっちで大変さ、我儘な連中が多くてな、問題山積だよ」

「そうなんですか、どんな問題があるんですか?」

「一言でいうと、生きてた頃の煩悩が抜け切れてないんだな」

「煩悩?」

「ああ、言い換えれば欲望かな、霊界に来てまで肩書きがどうとか、序列がどうとか、恋愛がどうとか、そんなことに執着する連中が多くてな」

「それじゃ、現世の人間界と同じじゃないですか?」

「ああ、まったくそのとおりさ、そんなことで諍い起こして、刃傷沙汰になっても、これ以上死ぬわけにいかねぇしな、いい加減にして欲しいよ」

「なんか、現世も、そちらの世界も、あんまり変わらないみたいですね」

「かもな、この間なんか面白いって言っちゃ問題かもしれんが、でも面白いことがあったんだぜ」

「へー、何なんです」

「もう4・5年前になるかな、過労死っていうのか、仕事のし過ぎでな、くも膜下出血で死んだ男がこっちに来たんだ」

「過労死ですかぁ」

「ああ、上司にかなりこき使われたらしいんだが、面白いのここからさ」

Aは身を乗り出していた。

「1ヶ月ほど前にな、その上司が来たんだよ」

「そのこき使った上司がですか?」

「ああ、ご対面したんだ」

「複雑ですね」

「まあな、その時の雰囲気はなんとも言えず、面白かったなぁ」

「当事者はそうでもないでしょ」

「後からきた上司はな。先に過労死した奴は、こっちは大先輩だからな、これからが見ものさ」

「意地悪ですね」

「そっちの世界じゃ、こき使って死ぬこともあるだろうが、こっちは死なないからね、いくらいじめても」

「それって過労死した元部下が、後から来た上司にエンドレスの復讐をするってことですか?」

「そんな雰囲気だよ」

「その上司、死んだこと後悔してるんでしょうね?」

「たぶんな、でも身から出た錆ってとこさ」

「なんか教訓じみてますね」

「そうだな、現世でも仲良くしてれば、こっち来ても仲良く幸せに過ごせるのにな」

「考えさせられる話ですね」

「おっと、そろそろお天道様が顔を出すぞ」

「そんな時間ですか」

そろそろ明け方が近づいてきていた。

「じゃ、今年はこの辺で」

「ああ、ありがとよ、来年も楽しみにしてるから、というより早くこっち来いよ」

「いや、今の話聞くと、まだこっちで地味に暮らしてる方が良い様な気がしますよ」

「そりゃそうだな、今の時間、大事にしろよ」

「はい、ありがとうございます」

Aは墓石に頭を下げた。

周囲が明るくなる前に墓地を出ないと、不法侵入で捕まる恐れがあったので、急いで寺の外に出た。

国道に出て品川駅に向かって歩きながら考えていた。

「こっちもあっちもドロドロして大変なんだなぁ、とにかく今を精一杯生きよう」



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